Agentic Design Patterns の内容を元に、AIエージェントの設計パターンについて整理しておく。AIエージェントを構築する際の基本的な考え方と、実践で使える設計パターンを整理しています。
AIエージェントとは
AIエージェントとは、自律的に環境を認識し、目標達成のために行動を取るシステム です。従来のチャットボット(質問に答えるだけ)とは異なり、エージェントは以下の5ステップのループで動作します。
ミッション受領
環境スキャン
計画立案
行動実行
学習・改善(そして1に戻る)
エージェントの進化レベル
AIエージェントは、その能力によって4つのレベルに分類できます。
レベル 名称 特徴 例 Level 0 コア推論エンジン LLMのみ。外部ツールなし 単純なチャットボット Level 1 接続された問題解決者 外部ツール(検索、API等)を使用可能 天気を調べて答えるBot Level 2 戦略的問題解決者 計画立案、プロアクティブ支援、自己改善 複雑なタスクを分解して実行 Level 3 協調的マルチエージェント 専門化されたエージェントのチームが協力 開発チーム全体を模倣
各レベル間の違いを理解することが重要です。
Level 0→1:外部世界と対話できるかどうか
Level 1→2:自分で計画を立てられるかどうか
Level 2→3:複数のエージェントが協力できるかどうか
基本パターン
エージェントを構築する上で最も基礎となるパターンを紹介します。
1. Prompt Chaining(プロンプト連鎖)
複雑なタスクを小さなステップに分解し、順番に処理するパターンです。
単一の複雑なプロンプトでLLMに指示すると、指示の見落とし、文脈の喪失、エラーの増幅、幻覚(Hallucination)といった問題が発生します。タスクを分割することでこれらを軽減できます。
例:ブログ記事の作成
1. トピックからアウトラインを生成
2. アウトラインから各セクションを執筆
3. 全体を編集・校正
2. Routing(ルーティング)
入力内容に応じて、適切な処理経路を選択するパターンです。
例えば、顧客の問い合わせを受け取ったら、ルーターが内容を分析して技術サポート担当、注文状況担当、製品情報担当など適切なエージェントに振り分けます。
ルーティングの方法には以下があります。
LLMベース:LLMが入力を分析して判断(柔軟性が必要な場合)
埋め込みベース:意味的類似性で判断(大量のカテゴリがある場合)
ルールベース:キーワードで判断(明確なルールがある場合)
MLモデルベース:訓練された分類器で判断(高精度が必要な場合)
3. Tool Use(ツール使用)
LLMが外部のAPI、データベース、サービスと対話できるようにするパターンです。
LLMだけではリアルタイム情報の取得(天気、株価など)、計算の実行(正確な数値計算が保証されない)、外部システムへのアクション(メール送信、予約など)ができません。Tool Useパターンでこれらを可能にします。
処理の流れは以下のようになります。
ツール定義(どんなツールが使えるかをLLMに教える)
LLMが判断(ツールが必要か?どのツールを使うか?)
ツール呼び出し(LLMがJSON形式で指示を出力)
ツール実行(システムが実際にAPIを呼び出す)
結果をLLMに返す
LLMが最終応答を生成
4. Parallelization(並列化)
独立したタスクを同時に実行し、処理時間を短縮するパターンです。
例えば、旅行計画であればフライト検索、ホテル検索、レストラン検索を同時に実行できます。ただし、並列化できるのは独立したタスクのみで、タスクBがタスクAの結果を必要とする場合は順次処理が必要です。
5. Reflection(リフレクション)
エージェントが自分の出力を評価し、改善するフィードバックループです。
実行:初期出力を生成
評価:出力を基準に照らして分析
改善:批評に基づいて出力を修正
反復:満足のいく結果になるまで繰り返す
より効果的な方法として、Producer(生産者)とCritic(批評者)に役割を分離します。同じLLMが作成と評価を両方行うと自分のミスに気づきにくいため、別のペルソナを与えることで異なる観点からの疑似的な批評が可能になります。
6. Planning(計画立案)
高レベルの目標を受け取り、達成するためのステップを自律的に生成するパターンです。
Prompt Chainingとの違いは、ステップの決定方法です。Prompt Chainingでは開発者が事前に設計しますが、Planningではエージェントが自律的に生成します。状況に応じて計画を変化させる柔軟性があり、解決策が不明なタスクに適しています。
GoogleのDeepResearch機能はPlanningパターンの実例です。ユーザーの複雑なトピックを受け取り、多段階の研究計画に分解し、反復的に検索・分析を実行して構造化されたレポートを生成します。
7. Multi-Agent Collaboration(マルチエージェント協調)
複数のエージェントが協力して目標を達成するパターンです。
単一エージェントの限界(単一の視点・単一の推論トレースに依存するため、専門性の分離や自己検証が難しい)をマルチエージェントで解決します。
協調の形態には以下があります。
Sequential Handoffs:順次引き継ぎ(ライター→編集者→デザイナー)
Parallel Processing:並列処理(競合分析、顧客調査、トレンド分析を同時に)
Debate and Consensus:議論と合意形成(強気派と弱気派が議論)
Hierarchical Structures:階層構造(マネージャーがタスクを分配)
Expert Teams:専門家チーム(フロントエンド、バックエンド、DB担当が協力)
Critic-Reviewer:批評・レビュー(開発者が書き、レビュアーがチェック)
高度なパターン
Memory Management(メモリ管理)
エージェントに「記憶」を与えるパターンです。これがないとエージェントは毎回の会話で「初対面」の状態になります。
メモリには2つのタイプがあります。
Short-Term Memory(短期メモリ):現在の会話内の情報。LLMのコンテキストウィンドウ内に存在し、セッション終了で消失
Long-Term Memory(長期メモリ):外部ストレージに保存された情報。セッション間で永続
長期メモリには3つの種類があります。
Semantic Memory(意味記憶):事実と概念の知識(ユーザーの好み、設定)
Episodic Memory(エピソード記憶):過去の出来事の記憶(過去の会話履歴)
Procedural Memory(手続き記憶):成功した作業手順やワークフローを外部に保存したもの
RAG(Retrieval Augmented Generation)
エージェントに「外部知識」を与えるパターンです。LLMの知識の古さ(訓練データ以降の情報を知らない)と知識の範囲(社内文書など非公開情報を知らない)という限界を解決します。
RAGの基本プロセスは以下の通りです。
ユーザーがクエリを送信
外部知識ベースから関連情報を検索
最も関連性の高い部分を抽出
元のプロンプトに追加(拡張)
LLMが取得した情報に基づいて回答
コア技術はEmbeddings(埋め込み)です。テキストをベクトル(数値の配列)に変換し、意味的な近さを計算します。「車の値段」と「自動車の価格」は同じ意味ですが、キーワード検索ではヒットしません。Embeddingsによる意味検索で解決できます。
RAGの進化形として、Graph RAG(ナレッジグラフを使用)やAgentic RAG(エージェントが検索結果を評価して再検索)があります。
通信規格
MCP(Model Context Protocol)
LLMが外部リソースと対話するための標準化されたインターフェースです。Anthropic社が提唱したオープンスタンダードで、「どのLLMでも、どの外部システムにも接続できる」ことを目指しています。
従来のTool Function Callingはベンダー固有で再利用が困難でしたが、MCPにより標準化されたプロトコルで接続できます。
MCPサーバーが提供する3つの要素:
Resources:静的データ(ファイル内容、DB情報)
Tools:実行可能な関数(検索、計算、API呼び出し)
Prompts:対話テンプレート(定型的な質問形式)
A2A(Agent to Agent)
異なるフレームワークで構築されたエージェント同士が通信するための標準規格です。Google主導で開発され、Salesforce、SAP、Microsoft等が参加しています。
MCPがエージェントとツール・データの接続なのに対し、A2Aはエージェント同士の接続です。両者は補完関係にあります。
A2Aのコア概念:
Agent Card:エージェントの「名刺」。名前、エンドポイント、スキル、認証方法をJSON形式で記述
エージェント発見:Well-Known URI、レジストリ、直接設定などの方法で他のエージェントを発見
通信方式:同期、非同期ポーリング、ストリーミング(SSE)、Webhook
実用パターン
Exception Handling(例外処理と回復)
予期しないエラーが発生しても、システムが適切に対応するパターンです。
エージェントは現実世界と対話するため、APIエラー、無効なデータ、タイムアウト、LLMの誤動作など様々な障害が発生します。
例外処理の3つのフェーズ:
Error Detection(検出):エラーを発見
Error Handling(処理):Logging、Retry、Fallback、Graceful Degradation、Notification
Recovery(回復):State Rollback、Diagnosis、Self-Correction、Escalation
Human-in-the-Loop(人間の介入)
AIの処理に人間の判断を組み込むパターンです。
エージェントは万能ではなく、曖昧な状況での判断、倫理的判断、未知の状況への対応、責任を負うことが難しいです。
HITLの形態:
Human Oversight(監視):人間がリアルタイムでエージェントの動作を監視
Intervention and Correction(介入と修正):エージェントが不確実な場合、人間に判断を仰ぐ
Human Feedback for Learning(学習用フィードバック):RLHF等に活用
Decision Augmentation(意思決定支援):AIは情報提供、人間が最終決定
Escalation(エスカレーション):複雑/重要なケースは人間にエスカレート
Human-on-the-Loop(HOTL)という変形パターンもあります。人間が事前にルールを設定し、AIが自律的に実行します。異常時のみ人間に通知します。
Goal Setting and Monitoring(目標設定と監視)
エージェントに明確な目標を与え、達成度を追跡するパターンです。
PlanningパターンとはGoal Setting & Monitoringは「達成できたか」を評価する点で異なります。両者は補完関係にあり、目標設定→計画立案→実行→進捗追跡→未達成なら計画修正、というサイクルで動作します。
注意点として、目標の曖昧さ、自己評価の限界、無限ループの危険があります。役割分離、最大反復回数の設定、人間によるレビューで対処します。
高度な最適化パターン
Learning and Adaptation(学習と適応)
エージェントが経験から学び、時間とともに改善するパターンです。
学習の種類:
強化学習:報酬/ペナルティから学ぶ
教師あり学習:正解例から学ぶ
教師なし学習:パターンを発見
Few-shot学習:少数の例から学ぶ
オンライン学習:メモリ・方針・ルーティング等の継続的な更新
メモリベース学習:過去の経験を参照
重要なアルゴリズムとして、PPO(Proximal Policy Optimization:慎重に少しずつ改善する強化学習)とDPO(Direct Preference Optimization:人間の好みを直接学習)があります。
実例として、SICA(Self-Improving Coding Agent:自分自身のコードを修正して性能を向上)やAlphaEvolve(Google:LLM+進化的アルゴリズムでアルゴリズムを発見・最適化)があります。
Resource-Aware Optimization(リソース認識最適化)
コスト、時間、計算リソースを考慮して動的に判断するパターンです。
「最高の結果」だけでなく「制約内で最適な結果」を目指す必要があります。
主な最適化戦略:
モデルの使い分け:簡単な質問は軽量モデル、複雑な質問は高性能モデル
Router Agent:クエリを分析し、最適なモデルに振り分け
階層的エージェント:高レベル計画は高性能モデル、個別タスクは軽量モデル
Fallback:主要サービスが使えない場合の代替
Critique Agent:応答品質を評価し、ルーティングを改善
設計パターン一覧
最後に、全体をまとめます。
基本パターン(7つ)
パターン 一言で言うと 解決する問題 Prompt Chaining タスクを順番に分解 複雑な指示の失敗 Routing 適切な経路を選択 単一処理の限界 Tool Use 外部ツールと連携 LLMの知識・能力の限界 Parallelization 同時に実行 処理時間の長さ Reflection 自己評価と改善 出力品質の問題 Planning 自律的に計画立案 未知のタスクへの対応 Multi-Agent 複数が協力 単一エージェントの限界
高度なパターン(4つ)
パターン 一言で言うと 解決する問題 Memory Management 過去を記憶 文脈の喪失 Learning & Adaptation 経験から学習 静的な能力の限界 MCP ツールとの標準接続 ベンダー依存 Goal Setting & Monitoring 目標達成を追跡 成果の不確実性
実用パターン(3つ)
パターン 一言で言うと 解決する問題 Exception Handling エラーから回復 システム障害 Human-in-the-Loop 人間が介入 AIの判断限界 RAG 外部知識を活用 知識の古さ・範囲
エンタープライズパターン(2つ)
パターン 一言で言うと 解決する問題 A2A エージェント間通信 フレームワーク間の壁 Resource-Aware Optimization リソースを最適化 コスト・時間の制約
実践のポイント
パターンは「部品」である:単独で使うより、組み合わせてより強力なシステムを構築する
完璧を求めない:エラーは必ず起きる。Exception HandlingとHuman-in-the-Loopで対処
コストを意識する:「最高のモデル」ではなく「制約内で最適なモデル」を選ぶ
学習し続ける:静的なシステムは陳腐化する。Learning and Adaptationで進化し続ける
標準化の重要性:MCPとA2Aにより、エコシステム全体で協調できる